追記。

ziziさん(d:id:sisc:20070228)が日記でIKKIや他のニッチ系の雑誌の露出度と単行本の売り上げについて考察されています。ブービー付近かぁ…。


“ある連載漫画”について、雑誌を買う人と、単行本を買う人は、4つに分類できます。

  1. 雑誌を買って、単行本も買う人。
  2. 雑誌を買って、単行本は買わない人。
  3. 雑誌を買わないで、単行本は買う人。
  4. 雑誌も単行本も買わない人。


(IKKI, 『鉄子の旅』) の組み合わせに関しては、3の人が非常に多いということになるわけですね。
さて、雑誌には、鉄子の旅に限らず、ほかにもたくさん漫画が連載されています。雑誌を買っている人(1と2)は、ほかの連載にも興味を持って、もしかしたら別の単行本を買うことになるかもしれません。
でも3の人達は、『鉄子の旅』の世界から外に飛び出して、他の連載や他の単行本に興味を持つのはレアケースだと思います。
鉄子の旅』の単行本には、雑誌IKKIへのリンクしか無いので、他の連載に興味を持つまでの距離が一段階遠い上に、店頭でなかなか見かけない「雑誌IKKI」自体がミッシングリンク状態になっているからです。


雑誌IKKIがどういう販売戦略を考えているのかいまいちよくわからないのですが(編集長の趣味による半同人誌的扱い…って考えると一番しっくり来てしまったり)、普通に考えると、雑誌*1を通した放射状のリンク構成が無い以上、孤島状態になった単行本は苦戦せざるを得ないはずです。そのディスアドバンテージをひっくり返して、『鉄子の旅』がウン十万部も売れているというのは、やっぱりヨコ様と鉄ヲタのブームが来ているからなのかしらん…。


ところで、そういう販売戦略をしていると何が起きるかの好例がありました。
昨年、佐々木倫子先生の「月館の殺人」っていう漫画が上下巻で発売されたのをご存じの方も居ると思います。
私が最初に興味を持ったのは、「動物のお医者さん」「ペパミント・スパイ」などでおなじみの佐々木先生の最新刊だからでした。いわゆる作者買いです。表紙や帯を見てみると、どうやら鉄道ネタっぽい。


買ってみたところ、内容はありえない濃さの鉄道ネタまみれでした。非常に面白い。佐々木先生も綾辻先生も鉄道に詳しいという話は聞かないので、相当に強いブレーンが付いて居るんだろうな、という想像はつきました。
で、奥付を見てみると……。

単行本編集責任:江上英樹


納得です。
ここでようやく、江上編集長とIKKIを通じて、はじめて「月館の殺人」と「鉄子の旅」がつながったわけです。雑誌IKKI、最後に登場ですよ。私の中では、同じIKKI COMIXであるという横のリンクは、そこまで希薄でした。つまり、とりもなおさず、本屋で平積みにされている単行本を見かけなかったとしたら、私が「月館の殺人」を知る機会は(同じIKKI連載だというのに)無かったかも知れないということです。そんな馬鹿な。


でも逆に見れば、それぞれの連載にパワーがあるお陰で、雑誌という放射状のリンクがなくても、いつかは目に止まることになったのかも知れません。そう考えると、「鉄子の旅」「月館の殺人」に関しては、IKKIに連載せず、書き下ろしで単行本を出したとしても、売り上げは今とそう変わらないのでは?
……まぁ、そんなわけはないと思いますが。雑誌も1万部単位で売れてはいるのですし。



ところで、「IKKI」のIは棒線駅、Kはスイッチバック駅を表しているという噂は本当なんでしょうかね?



*1:この場合は、連載漫画のカタログとしての役割も果たします。

数日前から実は、研修で東京に出てきています。
研修所の宿舎が取れなかったので、実家がよいです。
お世辞にも近いとは言えない距離ですが、楽しいこともあります。


そのうちの一つが、本屋に入り浸ること。
長野では本屋に行くのにも、車を出さなくてはいけなかったり、
そもそも蔦屋書店だらけでどこも品揃えが似たり寄ったりだったり
なかなか本を眺めて楽しめませんでしたが。


さすが東京!
さすが都心!
ちょっと見回せば、小さい本屋から大きい本屋まで、よりどりみどり。


そんなわけで、久しぶりに読んだ本紹介です。


鉄子の旅 6 (IKKI COMIX)

鉄子の旅 6 (IKKI COMIX)


5年にわたった連載が終わってしまいました。最終巻です。
私、いまだに本屋で掲載雑誌のIKKIを見たことがないんですが、雑誌の影の薄さに比べて単行本はどこの本屋でも全面に押し出されてる人気作です。

私は、この作品をここまで引っ張ってきた要素って、菊池さんの絵柄が大きいと思います。
トーンを多用せず、細い筆跡で丁寧に描き上げられた駅や列車は、写真とはまた違った魅力を感じさせてくれました。多分、取材時に資料として撮った写真をもとに描き上げられているのだと思いますが、描かれた駅に実際に降り立ってみると、まさにこの漫画の「絵」が実際の駅の魅力を表現しているのを感じられます。


内容については、また日を改めて。
キクチさんカミムラさん、そして横見さん、お疲れ様でした。


最長片道切符の旅 (新潮文庫)

最長片道切符の旅 (新潮文庫)


乗り鉄のバイブルのような書です。
数年前に一度読んだのですが、本棚から出てきたので再読してみました。
2004年ごろ、NHKで「最長片道切符の旅」の中継番組が放送され、人口に膾炙した感のある最長片道切符ですが、ルーツはずっと昔。この本の書かれた頃にはもうすでに、整数問題のモデルケースとして研究の題材にされていたようです。


当時、青函トンネルはまだなく、そのかわり四国へ渡る航路が2本ありました。北海道を見れば、天北線があったおかげで稚内が始発点ではなかったし、九州の筑豊炭田付近では怪奇とも言える乗り継ぎをすることができました。
今、路線図を見ると、どこも見違えるようにスッキリしています。


旅行を繰り返すうちに、頭の中に「今の」路線図が焼き付いてしまっていて、
昔に存在していたはずの路線は、私の脳内のどこにも入る隙間はありません。
古い写真や地図を見て、そこにあったことがわかっていても、
実際に見たことも乗ったこともない路線の情景をイメージすることは、極めて難しいのです。


この本は、そんな失われた情景を、私に味わわせてくれました。
最長片道切符の旅」には、写真はたった一枚しか出てきません。(それも、切符そのものの写真だけ)
でも、宮脇氏の簡潔な筆致は、現在の駅や路線の風景に負けないほどに、
いきいきと鮮明に「生前の彼ら」を描き出しています。


おすすめです。