2月8日(木)
8:35 奥羽本線 大館駅
何事もなく、「あけぼの」は定刻に大館に到着。(降りるときに荷物がまとまんなくて焦った…。)今年は暖冬と言われて、長野も市内にはまったく雪がありませんが、さすがに秋田までくるとまわりが白いです。そしてチラチラ雪も降っている…。
大館駅構内に、試運転のキハ110系が。冷房取り付け改造をした花輪線の車両らしい。
大館駅の売店で、大館名物「鶏めし」を購入。850円。出発前に、上司に「大館行くなら鶏めしを買わないとダメだよ」と言われてたのです。(その人は筋金入りの鉄道マニア…)
でもまだおあずけ。
今回の旅行も、出先での行動にレンタカーを使うことにしました。
最近お気に入りなのが、「レール&レンタカーきっぷ」。JRに201キロ以上乗るとかのルールはありますが、これを使うと運賃が2割引、料金が1割引、レンタカーも(Aクラス以上は)割引料金適用なのです。
なんといっても、運賃2割引がありがたい。これを生かすためには、できるだけ乗車券のルートを長く取るのがいいですね。
で、レール&レンタカーきっぷを使おうと思ったんですが。
大館駅には駅レンタカーが無い! ショック…。
一番近い営業所は東能代。でも営業開始が8時なので、東能代→大館の移動を考えると時間のロスが大きい。うーん、どうしよ。
結局、駅レンタカーは明日のくりでんで使うことにして、2日目のここ大館では、別にトヨタのレンタカーを借りることにしました。
トヨタは有り難いことに県内乗り捨て無料なので、秋田→大館のワンウェイリースで確保。大館は今回のレール&レンタカーきっぷのルートから外れてるので、どっちにしろ秋田まで戻らないといけないのです。乗り捨て0円ならレンタカーで移動しちゃおうって算段。
途中にあったはずのジャスコが廃墟になってました。不況…。
9:45 小坂製錬小坂線 岱野駅跡
今回の目的地その1、小坂鉄道です。
腕木信号機とタブレットの通過授受が現役という、隠れた魅力満載の貨物専用路線。
大館市と隣の小坂町を結び、小坂町にある小坂製錬で産出される濃硫酸を大館に運び出しています。
以前は旅客輸送もしてたんですが、1994年に廃止。時刻表にも載らなくなって、今や知る人ぞ知る的存在です。
駅も、旅客輸送時代の12駅から3駅まで減らされています。その、減らされた駅うちの一つが綺麗に残ってました。
大館の次の駅だった岱野駅のようです。けっこうしっかりしてるけど、中は立ち入り禁止。
小坂鉄道の列車時刻は貨物時刻表にも載っていない(らしい)ので、なかなか情報が見つかりません。ネットで探すと平成16年度の時刻が見つかりました。
とりあえずそれを参考に、撮影プランを考えながら、終点の小坂方面へ向かいます。
岱野から線路沿いに東へ走って行くと、向こうからDLの単機が走ってくるのが見えたので、車を停めて撮影。どうもやっぱり、下調べしといた時刻から変更されているらしい…。
大館行DD132。いわゆる「単回」ですね。
10:20 東岱野駅〜雪沢温泉駅間
さらに東へ車を進めると、また大館行の列車にエンカウントしました。
こんどはコンテナ車です。濃硫酸は…、積んでない模様。(積めません!)
2004年と2006年に脱線事故を起こしてしまって以来、ものすごい徐行運転をするようになったようです。列車が通過してからおもむろに車を走らせたら、あっと言う間に先回りできてしまいました。
岱野駅まで先回りしてもう一枚。
11:20 茂内駅
下調べの時刻がいよいよアテにできないことがわかったので、兎にも角にも、タブレットの通過授受が行われる唯一の現存中間駅、茂内に移動することに。
詰所の駅員さんに一言ご挨拶して、構内の立ち入り許可を貰いました。
こういう所で撮影をするときは、アレな言い方ですが駅員さん達との間に信頼関係を作らないといけないと思います。うん。
雪に埋まってよくわかんないんですが、国鉄型2面3線に加えてヤードがある模様。
そしてありましたよ。
今や全国でここだけとなった、タブレット通過授受用設備。
初めて見ます。
さて、ここて1分でわかるタブレットの解説を。(これ知らないと小坂鉄道の何が良いのかわかりません!)
列車が衝突しないようにするために、線路には「閉塞」というものが存在します。腸閉塞とか、閉塞前線とかの閉塞ですね。線路をある間隔で(だいたいは駅や信号場で)区切ったところを想像してみてください。
この閉塞の中に、1つの列車しか入れないようにするんです。
1つの閉塞区間に、絶対に1つの列車しか居ないのなら、衝突は絶対起きません。
昔から、どうやって「1閉塞区間に1列車」の原則を徹底させるかの戦いだったのです。(大げさではなく…)
その方法のうちの一つが「タブレット閉塞」。
「タブレット」と呼ばれる金属製の円盤を革のキャリアに入れて持ち運びます。
タブレットを持っている列車だけが閉塞に入ることができ、タブレットは1つしか存在しない*1ので、1閉塞に1列車の原則が守られるということになります。
今でも実際にタブレットを使っている路線はあります。下の写真は只見線大白川駅で撮影したものです。
大きな輪っかはタブレットキャリア(入れ物)で、革のポーチの中に金属の円盤が入ってます。
今では地方のローカル線区ばかりになってしまいましたが、かつては全国的にこのタブレット閉塞が使われていました。
ナントカ本線と名のつく路線でも普通に使われていたのですが、そうすると困るのが通過列車です。
駅や信号場などの、閉塞区間の境界では、必ず持ってきた前の区間用のタブレットを返し、次の区間用の新しいタブレットを貰わなければいけません。(タブレット交換という)
ただ、急行や特急が、タブレット交換のためにいちいち駅に停まってたら、それはもう急行ではない。
そんなわけで、停まらずにタブレット交換をする設備が作られたわけです。それが、今ではここ小坂鉄道でしか使われていないという、これ。
持ってきたタブレットキャリアを、このタブレット受器(形から、「蚊取り線香」と呼んだりします)に引っかけ、
あらかじめタブレット授器にセットされている、新しいタブレットキャリアを持ち去ります。
腕を輪っかにつっこんで持ち去ったり、列車から伸びた棒を引っかけて取り去ったりしていたといいます。今じゃなかなか考えられない豪快さ。
そんな通過タブレット交換(通過授受)が今でも間近で見られるというのは、すごいことだとガッテンしていただけましたでしょうか。
そしてもう一つ。
現役の「腕木信号機」です。
私はこれも、現役なのを見るのは初めて。(廃止後に記念移設されたものは、木次線とかで何度も見ましたが…)
文字通り、腕木の向きで、進行・停止を表現します。
上の写真では、左の信号が停止(腕木が横)、右の信号が進行(腕木が下)です。また、暗くなると色灯を点灯します。腕木の反対側に何となく色ガラスが見えますね。
話が前後しましたが、このあたりで突然に激しい雪が降ってきました。
少々油断して、防寒がおろそかだった私。ガタガタ震えてました。
12:00 貨物列車通過
正午近くになって、山の向こうから機関車の汽笛が響いてきました。
赤い旗を持った駅員さんが詰所から出て、通過ホームにスタンバイ。
そしたらいきなり、「どんな絵を撮りたいの?」って聞かれました。
タブレットを蚊取り線香に投げ入れるところと、もぎ取っていくところを取りたいと言うと、駅員さんは近づいてきた列車に旗で何かの合図を送ります。
それを確認するかのごとく汽笛一声。列車が近づきます。
機関士さんが窓から腕を伸ばして、タブレットキャリアを構えました。
えい。
引っかけるというより、投げ込むという方が近いかも。
タブレットキャリアはうずまきをぐるぐると回って、見事受器に納まる。
ガシッ。
タブレットを受け取ると、列車は発動機を最大にうならせて、小坂へ向けて去っていきます。
駅員さんが転轍テコ小屋に入り、腕木信号機を停止現示に変えます。静かになった駅構内に、カァン…とカウンターウエイトの落ちる音が響き渡りました。
ちなみに。
後で聞いた話によると、普段は受器を使用しないで、駅員さんが直接に手でタブレットを受け取っているらしい。通過前に駅員さんが出していた手旗合図は、「タブレット受器を使用せよ」という意味だそうです。撮影のためだけにやって下さるとは………。
茂内でのタブレット通過授受は、夕方にもう一回行われます。
いったん茂内を離れ、終点・小坂駅へと向かうことにしました。
12:20 昼食
その前に、遅まきながらお昼ご飯。
朝に大館で買った、鶏めしをいただきました。
ご飯に炊き込まれた鶏のダシが美味しい。脂の乗った鶏が美味しい。
13:10 小坂駅
大館市の東の小坂町の中心街に位置する小坂駅は、東側の山に広がる小坂鉱山の積み出し駅として栄えていました。かつては銀、近年は銅・亜鉛・鉛を産出していたそうですが、今は産業廃棄物からレアメタルを取り出すリサイクルを行っているそうです。で、その行程で出来る副産物が濃硫酸。小坂鉄道のメインは、この濃硫酸輸送です。
小坂駅舎は、旅客営業当時とほぼ同じ姿で残っています。
ただし、無断立入禁止。茂内と違い、こちらの駅はなかなか中には入れてもらえないようです。
出発信号機(もちろん腕木式)付近には、重連のDLが。
踏切の脇に倉庫代わりらしき有蓋車が。ワフでしょうか。
小坂駅は、川と細い道路を挟んで住宅街と隣接しています。
その細い道路から、すぐ上に大きなタンクが見えました。
ちなみに、このすぐ隣には3000tのタンクもありました。
なんか、いろいろケタ外れにすごいです。
そうこうしてるうちに、そろそろ午後の上り貨物列車が出発する時間です(以前の時刻表では、ですが)。
小坂町内ではなかなかいい撮影ポイントが見つからなかったので、先に茂内方面へ移動して待ち受けることにしました。
このへん。
マップには小坂鉄道が載ってないですが、+ボタンで拡大していくと見えてきます。
14:00頃 篭谷駅跡付近
再び雪が激しくなってきました。
時折頭をフルフルして雪を払いながら、いつ来るとも知れぬ列車を待ちます。
やがて、遠くから鋭い汽笛が。
3重連だ!
小坂から茂内まで、線路は山を一つ越えています。
満載の貨物列車は3重連じゃないと牽き上げられないのでしょうか。
13両のタンク車を率いて、列車が通り過ぎていきました。
相変わらずの徐行なので、先回りを試みます。
14:10頃 篭谷〜茂内間
この辺り、線路は道路沿いを走ってます。
ちょうど道路と線路がツライチになっている場所があったので、撮影。
この列車は茂内に停車するので、通過授受はおこないません。
その間に茂内駅を通り過ぎて、駅の西側で待機。
14:20頃 茂内駅付近
茂内にDLを2両置いてきたらしく、機関車は1両に減っていました。
停止現示の下り場内信号機を背に、力強く加速していきます。
さらに何箇所か先回り。
少しずつ陽が陰り始め、夕方の雰囲気になってきました。
15:30 東岱野駅付近
今日最後の下り列車が、大館駅を離れて小坂に向かうころです。
午前中の下り列車は、茂内駅で待ち受け撮影をしたため、ほかの場所での下り列車の写真がありません。東岱野駅付近の跨線橋の上に先回りして追跡撮影することに。
16:00 茂内駅
4時間ぶりに茂内駅に戻ってみると、腕木信号機の色灯が点灯してました。
やっぱりこの方がそれっぽいですよね…。
ちょうどいい時間です。
遠くから汽笛が近づいてくると、駅員さんが旗を持って出てくるのは、昼間と同じ。
例の合図を繰り返します。
タブレット受器に近づく列車。
投入!
そしてキャッチ。
これらが5秒以内によどみなく行われ、列車は小坂へ去っていきました。
駅員さんは、「今のうちにいっぱい撮っといてくれ」と仰有っていました。
今のところはまだ、タブレットも、通過授受も、腕木信号も安泰に営業しているけど、
いつか無くなってしまうかもしれない。やめてしまうかもしれない。
そのうち小坂鉄道自体が廃止されてしまうかもしれんよ、という笑顔に、一抹の寂しさを感じました。
鉄道がそこにあるってことは素晴らしいことだと感じた一日でした。
16:20
感傷に浸る間もなく、秋田に向かわなくてはいけません。
レンタカーを借りた場所は「大館」でしたが、返却事務所は「秋田駅前」です。
この時点では、このあと、秋田17:59発のこまち32号に乗る予定で、指定券も発行して貰っていましたが*2、このままではとても間に合わない。(小坂鉄道の最終下りが予想より遅いスジだったということもありまして…)
とにかく出発です。
大館から秋田に抜ける道は、国道7号を西進して東能代へ出てから琴丘能代道路で一気に秋田まで南下するルートと、国道285号線で阿仁の峠を越えるルートの2つがあります。
距離では285号線のが30キロほど近いけど、ナビの推奨は東能代経由。
ここはナビを信じることにして(私も経験的にそっちのが早いと思ったし)、一路国道7号を西へひた走る。雨が降り出しました。
ここでおさらい。
指定席特急券・指定席急行券は、当該列車に乗れなかった場合、指定席の効力を失い、当日中の後続列車に限り、自由席特急券として利用できます。ただし、後続の列車が全席指定席の場合、特定区間に限り立席特急券として利用できます。
要するに、乗り遅れたら立ってけ*3という訳です。それは悔しい。
幸い、発車時刻前なら指定列車の変更は可能なので、17:59までにどこかの駅に駆け込んでみどりの窓口にきっぷを差し出せばセーフってコトになります。
19:20 秋田駅
まにあいました。
レンタカー事務所は駅から少し離れていたので、車を返却して駅の方に歩いていくと、だんだん周りがいつか見た雰囲気になってきて、とある角を曲がった瞬間、記憶にあった秋田駅と現在位置が一致しました。この感覚、なんともいえず大好き。
秋田駅に着いたらまず、いの一番に駅弁を探しました。そりゃもう空腹ですから。
しかし、2軒あるうちの片方では、すでに昼に食べた「鶏めし」しか残ってない!
さすがに重複は回避したいので、もう一軒を覗いてみると、残ってました。
「あきたこまち弁当」900円。
幕の内系はいつも回避してるんですが、背に腹は代えられません。購入。
あとは、最終のこまちで、今日の宿泊地である一ノ関へと向かうだけです。
お弁当はごはんが美味しかったです。冷たくても美味しいとは、さすが。