NHK土曜ドラマ「ハゲタカ」にみる映像表現。


普段ドラマをまったく見ないんですが、このドラマは前宣伝の効果もあって見ようと思ってました。
結論から言うと、非常に面白いです。キャストと構成と制作がガッチリ噛み合っている。


以下、ネタバレを含みます。ご注意。


ストーリーや登場人物などは公式サイトに任せておくとして、このドラマ、人物のキャラクターなどを印象付けている映像表現が秀逸です。
主人公で「ハゲタカの手先」である鷲津(大森南朋)は、合理的で冷たくて冷静なキャラクターとして描かれています。それを象徴しているのが、鷲津の背後から差す強烈な青白い逆光
レビューサイトでは、「逆光が強くて見づらい」「画面が全般的に青い」などという評価をちらほら見ましたが、そういう印象を覚悟しての演出でしょう。
特に、三葉銀行の役員たちに買値を提示するところなどは、殊更に逆光を強くしていたように思います。鷲津の「冷たさ」と同時に、役員たちに対しての無言の圧力、立場の差を上手に表現しているのでしょう。逆光で表情が読みづらい鷲津と相対していることで、青い光で顔を照らされた役員の考えは全て鷲津に読まれている、という状況も表現しています。
さらに、このときの鷲津が、ワンショット*1の定石を破って、頭の後ろに大きな余白を取って写されているのも、その効果を増強する役割を担ってますね。


最後に放映された今後の予告の中で、鷲津と相対する「日本的なバンカー」芝野(柴田恭兵)が、夕陽のような赤い照明の中に立つ映像がありました。まだはっきりとはしませんが、「鷲津=青」の対極としての照明表現の意図があるようにも感じました。まぁ、まだ1/6話の段階ではなんとも。


音声は、一部BGMやバックグラウンドノイズ(SE)にまぎれて台詞が聞きにくいところがありました。これは実際、そういう風になるようにMA*2をしたものと思います。
私見ですが、バックグラウンドノイズのレベルを上げて、聞かせたい音声を埋もれ気味にすることで得られる効果はいくつかると思います。もちろん、台詞を聞き損ねた人がストーリーを理解できなくなってしまう危険も多分にあります。
ただ、一方で、ノイズレベルを上げることで、視聴者が「能動的に」聴きにいかないと聞き取れない状況を作り上げ、視聴者を物語に没頭させることができる効果があると考えられます。
要するに、人間の耳に負荷を加えることで、現実とドラマの区別をあやふやにさせるとでも言うか。勿論、一歩間違うと台無しの諸刃の剣です。が、今回の話に関しては成功しているのではないでしょうかね?


まぁそもそも、よっぽど音響環境を整えない限り、テレビの台詞みたいにハッキリクッキリ聞こえるような状況は無いのです。どれだけ、ドラマの中の空間に現実味を持たせるか、という意味でも、音声のノイズレベルを上げるのは音声さんの腕の見せ所ということでしょう。


そういう映像・音声効果を駆使していることで、このドラマへの没頭度はかなり高かったように思います。次が非常に楽しみです。
あと、あのエンディング音楽が凄く好き。チェックしとこう…。



ドラマをよく見てたり、プロの人には当たり前のことかも。それどころか、全然見当違いかも。
そしたら素人考えでゴメンナサイ。
でも、こういう視点で見ると、もっと楽しめるかもしれません……?



*1:画面の中に一人だけを写しこむ構図。基本的に、顔の向いている方の余白を広く取ると、構図が安定する。

*2:音声編集