鉄道旅行で大事なこと 〜 安いきっぷと片道乗車券

札幌市内→長野 片道 21,420円


ご存じの通り、私は鉄道好き。
ふつうの人よりは多く鉄道旅行をします。
鉄道に乗るばかりの旅行といえども、旅行は旅行。
それなりのお金がかかります。


鉄道旅行では、もちろん宿泊費や食費もかかりますが、
やはり一番メインになるのはきっぷ代です。
きっぷ代をどれだけ節約するかで、旅行全体の収支や、節約した感が全然違ってきます。


きっぷ代を節約する方法にはいくつかあって、

  • 青春18きっぷ周遊きっぷなどのフリーきっぷを使う
  • 往復割引や学割などのルールを活用する
  • レール&レンタカーきっぷなどの特殊なきっぷを使う

などが挙げられると思います。ここでは3つ挙げましたが、キレイに分類できるわけではありません。周遊きっぷなどは、ゾーン券はフリーきっぷですし、ゆき券とかえり券はある意味往復割引に近いルールです。


しかし、これらのきっぷは、安さとひきかえに制約があります。
青春18きっぷは発売期間が限定されているし、周遊きっぷは決まった地域でしか使えないし、往復割引は片道601km以上の利用が必要だし、学割は学生でないといけません。
時には、これらのきっぷが全滅なこともあります。
実は、そんなとき、想像以上にお得なきっぷがあります。


それは片道乗車券
言わずとしれた、普通のきっぷです。
なに言ってんだこのどあほ、とか言わないでください。


http://d.hatena.ne.jp/hinoharu/20070503 にも書きましたが、A駅からB駅まで往復する場合に、単純に同じ経路の往復をするよりも、行きと帰りで別の経路を通る方が、かなり安上がりになることがあります。
5月3日のエントリの場合を単純化して(長野→京都の往復)、実際に計算してみると、


片道ずつ買ったとき


一方、行きと帰りを別の経路で買ったとき

  • 長野→名古屋→山科*1敦賀→福井→直江津→長野 864.4km 11,030円
  • 山科→京都 5.5km 180円
  • 京都→山科 5.5km 180円
  • 合計 875.4km 11,390円


行きと帰りが別の経路の方が明らかに距離が長いにもかかわらず、1,210円も安くなっています。これが「遠距離逓減制」のマジックです。
JR線の運賃計算は、乗車した距離に応じて運賃が決まります。乗車した距離が長くなればなるほど、運賃も高くなっていくわけです。ただ、単純に距離と運賃が比例しているのではなく、距離が長くなればなるほど、運賃の上がり方が鈍くなっていきます。
つまり、同じ距離を乗るのでも、きっぷを2区間に分けて買うより、1区間でバーンと買ってしまった方が安上がりになるというわけです。(1区間で買った方が、初乗り運賃が1回だけで良い分安い、的なイメージで大体合ってます)


片道乗車券というと、A駅からB駅まで直線的に行くしかできないというイメージを持っている人が多いと思います。でも実はそんなことはなくて、片道乗車券は、一度通過したことのある駅を再度通るまで、いくらでも続けることができます。
上の例の場合は、始発駅の長野に戻ってきた時点で、片道乗車券は打ち切られることになります。


ところで、さっき「乗車した距離に応じて運賃が決まります」と簡単に言いましたが、逆に言うと、運賃を決めるためには、乗車する距離が必要です。
きっぷを安上がりにしたいばかりに、とんでもない経路の片道乗車券を考えると、運賃の計算に四苦八苦するはめになります。もちろん駅の窓口ではプロの係員さんが素早く計算してくれますが、窓口まで行かないと値段がわからないというのも不便な話。
なんとかして、机上の計算で運賃を算出しようとするわけですが…。


市販の時刻表には、各線区の最初のページに、起点からの距離が小さく書いてあります。
基本的にはこれを足していけばいいのですが、足し算引き算が入り乱れるうえに、営業キロ・換算キロ・擬制キロと変な距離のオンパレード。正直、長い距離を正確に計算するのは相当の注意力が必要です。


時刻表検索サービスを使う方法もあります。乗換案内など、経由地を入力できるサービスを使えば、ある程度までなら自由な経路で運賃を計算できます。しかし、経由地の数が限られているうえに、ちょっと油断するとすぐ最短ルートを通ろうとするため、目的のルートを計算させられないこともあります。第一、乗り換えを案内するサービスなのだから、ある時間帯の乗り換えが極端に不便な路線などは、どうやっても採用してくれないこともありえます。


私はといえば、これまで上の二つの手法を併用してきました。それに加えて、わざわざ駅に出向いて実際に計算してもらったりなど、かなりの手間が掛かっていました。
しかし!
実は世の中にはとても便利なソフトウェアがあったのです!


というのはこちら
SWAさんこと、葛西隆也さんが配布している、MARS for MS-DOSというソフトウェアです。


MARSといえば、みどりの窓口で係員さんが叩いている端末、あのシステムが「マルス」という名前。その名の通り、運賃計算に特化したアプリケーションです。



起動してみると、こんな画面が出てきます。
発駅と着駅を入力し(この場合、どちらも長野なので、長野と2回入力)、続いて経由を入力していきます。
ここでポイントなのは、経由駅ではなく経由線区を入力していく点。
経由線区っていうのは、「信越1」とか「篠ノ井」とかいう、いわゆる線名です。
実際、みどりの窓口マルス端末も、駅名ではなく線区名で入力していくようになっています。その方が、経路を特定しやすいのです。


経路を入力し終わると、(場合によってはいくつかの乗り換え駅を聞かれますが)即座に乗車距離と、運賃が計算されます。



普通片道運賃(大人)は 11030円 であると計算されました。
せっかくなので、実際にこの経路で発券したきっぷを見てみましょう。



たしかに11,030円です。正しい!


ほかの経路も試してみる


次はこんなきっぷです。



経由に「ほくほく」という文字が入っています。第3セクターほくほく線を経由するきっぷですが、ほくほく線は連絡運輸といって、JR線と通しで乗る場合に一枚のきっぷにすることができます。



入力してみる。ちゃんとほくほく線(=北越急行)も入力できます。
そして結果。



6,410円。正しい!
調子に乗って、こんなのも計算してみましょう。



なんだかもう経由線区を見ただけじゃ何をしたいのかよくわかりませんが。



とりあえず入力。



21,420円。きちんと求めることができました。
計算機と時刻表と計算用紙で四苦八苦していたのが嘘のように、1〜2分で運賃が求まってしまうのは、快感でさえあります。

なお、経路入力では、東海道線から新幹線に乗り継ぐ駅に京都を指定しましたが、この結果画面では、東海道→[小田原]→新幹線 と、東海道線から新幹線に小田原駅で乗り継ぐことになっています。
これは、東海道新幹線が、基本的に東海道本線と同一な路線とみなされるというルールによるものです。つまり、運賃の計算上は、京都から小田原まで、東海道本線を通っても、東海道新幹線を通っても、まったく同じに扱う、というルールがあるわけです。ご参考までに。


MARS for MS-DOS というソフトウェアのすごさ、多少なりともわかって貰えたでしょうか。まあ、実際にこういう使い方をしようという人は、よほどの好事家でしょうが……


ところで、このソフトを公開されている葛西さんという方、実は2000年にいわゆる「最長片道切符」の経路計算をおこない、実際にきっぷを買って乗車し、あまつさえNHKの中継番組「列島縦断 鉄道12000キロの旅」の企画が生まれる発端となった方です。あの番組が、ここ数年の鉄道趣味の一般化の着火剤になったと考えれば、今の鉄道ブームの火付け人はこの人かもしれません。


いたよ、すごい鉄:-)

*1:京都の隣の駅で、実際に線路が折り返す駅